全国各地で活躍するマウジン2017 永井由佳里北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)副学長

永井由佳里 (ながい・ゆかり)
北陸先端科学技術大学院大学 (JAIST: Japan Advanced Institute of Science and Technology)
副学長(教育改革担当)・留学支援センター長
ヒューマンライフデザイン領域 教授・イノベーションデザイン国際研究センター長
(1989年度武蔵野美術大学 大学院造形研究科 デザイン専攻 視覚伝達デザインコース修了)

1990年武蔵野美術大学修士課程、2002年千葉大学博士課程修了。 2009年シドニー工科大学Ph.D.(Computing Sciences)を取得。武蔵野美術大学修士課程修了後は同大学図書館勤務を経て、嘉悦女子短期大学、桐生短期大学、筑波技術短期大学でデザインについて教える。2004年にJAIST 知識科学研究科に着任し、現在は複数の重職を兼務。オランダ、イギリス、オーストラリアで研究を重ね、豊富な国際経験と海外ネットワークを持つ。専門は知識科学、デザイン学、認知科学、特に創造性。

JAISTは修士課程と博士課程だけの新構想の国立の独立大学院大学として1990年に創立。いしかわサイエンスパークの中核を成し、先端科学技術分野において世界レベルの研究がなされている。学生の約4割は外国人留学生で、授業は英語と日本語。品川に社会人学生を対象にプログラムを提供する東京サテライトがあり、永井氏も週に一度のペースで上京し、研究指導を行なっている。

デザイン思考でこれからの社会を探る

─学生時代に夢中になったことは

二つあります。一つは、アウトドア好きの友人(その後、結婚)に連れられ、よく釣りに出かけていました。
もう一つは現代アートです。とりわけミニマル・アートに没頭し、大学院の研究論文テーマもミニマリズムでした。現代美術のゼミに属し、著名な国内外の現代美術家をムサビに招いて展示会やワークショップを開くという活動をしました。当時、学生がこのようなプロジェクトを主導することは珍しく、原美術館なども協力してくれました。
そもそも、作品を制作すること以上に、「作品が創造される過程」に強い興味があるという変わり者だったので、それが研究者の道を志すことになったのではと思います。

─主な研究内容は

アートやデザインにおける創造性についてです。創造的な思考過程を分析したり、デザインの視点で未来の意味を考えたりして、人間の創造力をより良い社会の実現のためにどう活かしたらよいかを、観察や実験などの多角的なアプローチで探求しています。

インドネシア農村部の工芸職人を対象に伝統的な木製サンダルを改良するデザイントレーニングを実施。新しいモデル(右)は従来モデル(左)のヒールの形状を上下逆にした特徴的なデザインとなっており、素材のよさ、伝統文様のよさが引き立ち、国際市場にも流通してビジネスとして成功している。

─どんな研究室ですか

学生・研究生の約半数は留学生で、ゼミは英語と日本語で行われています。多彩な学部出身者や様々な職業経験者がそろっており、きわめて学際的・国際的な環境です。バックグラウンドの異なる個人個人が、各人の自主性、独創性を尊重しつつ、議論を交わし、共に考え、協力の仕方を見出し、チームとして共創し向上することを目指しています。 これまでに、インドネシアの木製サンダルの改良や、動物園での車椅子散策支援ナビゲーションシステムの開発、また、ナース服の色に対する患者の印象の研究をもとに、季節感を想定したナースユニフォームの色のコーディネートを考案など、人々の生活や文化、ニーズに根付いた新しいイノベーションデザインを提案してきました。

3Dプリンターを使ったデザインワークショップ

─教育改革担当副学長としての目標は

JAISTをよりユニークな存在にデザインすることです。地球上から人工物(人間がつくったものや人間が関わったもの)を除くとほぼ何も残りません。例えば自然でさえも、人々の営みから影響を受けています。これは、人類が地球に与える影響は膨大だということを示す一方、人間がつくり出した問題だからこそ、人間の力で修復できるのではとも考えられます。こうした世界や社会の課題の解決に応えられる、幅広い専門知識とチャレンジ精神を養成していくのは大学の重要な任務です。「科学技術を使って世界を平和な状態に導くには」という問題意識を持ち、構成力・実行力のある人材を育む環境づくりを目指しています。

─仕事で大切にしていることは

相手に対する誠意です。教育指導する上で、学生が言いたいことを聞き、やりたいことを受け止めるということを心がけています。

─JAISTでこれから取り組みたいことは

自分たちの研究が社会にどんな影響を与えているのかを考えることは重要です。しかしながら、素晴らしい研究内容であるにもかかわらず、日の目を見ずに大学内に埋もれてしまったものがたくさんあります。こうした研究成果をビジネスに発展させ、大学のソーシャルインパクトをより一層高めていくにはどうしたらいいかを思案しています。クリエイティブなマインドを事業の実現に結びつけていきたいという観点から、「entrepreneurship(アントルプルヌールシップ、起業家精神)」という考え方に強く関心を持っています。
また、他大学との共同事業の一環として、金沢駅前に新たなスクールの開設を計画しています。目下、学生と一緒に「金沢らしいプログラム」をデザインしているところです。

─仕事以外で興味のあることは

好きなことを仕事にしているので、趣味といえることは特にないですね。でも、持ちたいという憧れがあって、たとえば盆栽とか。

研究室風景

─ムサビで学ぶ学生へのメッセージ

自分のビジョンを持ち、今日学んだことが自分の生きることにおいて何なのか、自分の生み出すアート作品が社会とどう関わっているのかを意識してください。

編集後記

金沢から二本のローカル線を乗り継ぎ、バスに揺られること約10分。のどかな農園風景が一変し、大企業の研究所などのハイテク機関に続いてモダンな建物が立ち並ぶJAISTの広大なキャンパスが登場。ここが超高度な科学技術の誕生地かと胸が踊った。その大学の要として、デザイン学において世界を先駆ける永井先生だが、柔和な笑顔と穏やかな口調からは、研究室での和気あいあいとした雰囲気が想像できた。優れたデザイン力がイノベーション成功の鍵になるという知見には、デザインに携わる者として誇らしさと責任の重さに改めて気づかされ、しゃんと背筋が伸びる思いだった。

ライタープロフィール

大橋デイビッドソン邦子(05通デコミ/グラフィックデザイナー)
名古屋市生まれ。1986年に早稲田大学政治経済学部卒業。NTTに8年間勤務し、広告宣伝や展示会、フィランソロピーを担当する。その後、米国ワシントンDC、パラグアイ、東京に移り住み、2006年に武蔵野美術大学造形学部通信教育課程デザイン情報学科コミュニュケーションデザインコースを卒業。2008年よりスミソニアン自然歴史博物館のグラッフィックデザイナーになり、現在も東京よりテレワーク中。NPO団体のデザインも手がける。