みんなが俺をつくってくれた
六平直政 俳優

六平直政「みんなが俺をつくってくれた」

そんなある日、たまたま見た朝日新聞で状況劇場が役者・裏方を募集する求人広告を発見。俺は彫刻をやっているから舞台美術なんかやってみたいなと思って、篠田先生に相談しました。すると先生が「六平君ね、君は彫刻家として大成するかもしれないけど、どちらかというと芸能に向いてるよ」と言ったんです。先生は芸能界のことなんて何も知らないはずなんだけど、その一言に背中を押されて応募したら合格。後で聞いたら、どうやら役者としての才能ではなく、セット作りなどで役に立つと思われたみたい(笑い)。

とにかく状況劇場にいたころは貧乏だった。休みはまったくないのに、給料なんて全然もらえない。10年くらいいたんだけど、結局、もらった給料は全部で20万円にも満たないんだもん。だから、当時の体重は約53㎏、ウエストは56㎝ほどで女性用のジーンズが履けるくらい痩せていました。生活が安定してきたのは、柄本明さんに誘われて東京乾電池に入ってから。35歳くらいからで、とくに伊丹十三監督や深作欣二監督に可愛がってもらいました。不思議なもので、そういう有名な監督の映画に出ると、テレビ業界も“この役者は誰だろう”って目を向けるようになるんだよね。その相乗効果で、仕事がどんどん増えていきました。だから、俺にとって人生のヒントをくれたのは篠田守男先生、演劇のヒントをくれたのは唐十郎さん、映画の恩人が伊丹十三監督と深作欣二監督ということになります。

一番大事なのは、人間関係

「今の若い奴は」なんて言わないけど、最近の若い人にはもっと積極性がほしいよね。例えば「これをやってください」と言えば、キチンとそれに応えてくれるんだけど、自分から「こうしたい。ああした方がいい」なんて言わない。どこか冷めている感じがするんだよね。俺なんか、学生運動の最後の世代だから、同世代の若者はすごく熱かったよ。新宿駅が占拠されて電車が一週間動かないなんて、今の若い人たちには考えられないでしょ。それがいいことか悪いことかは別にして、あの時代はとにかく若者のパワーがすごかった。

最近の若い人は、あまりお酒を飲みに行ったりしないらしいね。おまけに女性と付き合うのも面倒だと言う人もいるとか。信じられないよね。俺なんか毎日、飲みに行っていたし、彼女のために生きてるようなところがあったのに。一般の会社でも「先輩、飲みに連れて行ってくださいよ」なんて言う若手があまりいないらしいね。だけど、オフの時間に盛り上がったことがオンの時間に役立ったりすることがあるんだよ。例えば演劇だったら、誰かがオフの時間に歌った歌が上手くて、それを次の戯曲に取り入れたり。

人間にとって一番大事なことは、人間関係ですよ。だって、もし俺が映画監督だとして、3人の役者候補がいたら、間違いなく自分との人間関係が築けた役者を選ぶもんね。やっぱり信頼している役者と一緒に仕事したいじゃない。そういう人間関係って、オンの時間だけでなく、オフの時間で一緒に飲んだりしているうちにできあがってくるものだと思う。だから、若い人は自分の時間を自分だけで過ごすのではなく、もっと色々な人と接する時間にした方がいいと思うな。自分の時間をもっと他人と共有してほしいね。

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